【インタビュー】累計50万ダウンロードを超える「出荷ぶた」「出荷ぶた –冬ver–」の開発者にインタビュー。 ―シュールな世界に、今日もユーザーの「ありがとう」が飛び交う。―

豚を育てて出荷し、得たお金で牧場を発展させていく人気スマホゲーム「出荷ぶた」「出荷ぶたver –」。独特な世界観、かわいいキャラクターたち、それに易しい操作方法で話題を呼び、2015年のリリースから累計50万ダウンロードを超えています。子どもからシニアまで遊んでいる人気作品がどのように誕生したのか・・・開発者の八須竜馬(はちすりゅうま)さんにインタビューをしました。

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■「出荷ぶた」

出荷ぶたアイコン

■「出荷ぶた -冬ver-」

出荷ぶた冬verアイコン

社会人デビューは牧場で馬の世話。やがて「ゲームは人生に最も影響を与えるコンテンツ」との考えに至り、コナミのクリエイター養成学校へ

ー:まずは自己紹介をお願いします

「出荷ぶた」および「出荷ぶた – 冬ver –」を開発した八須竜馬です。自ら立ち上げたゲーム制作の株式会社EAGLEで、代表取締役社長とプロデューサーを務めています。
ちなみにEAGLEという社名は、私のダンサー名に由来しています。ゲーム制作と並行して10年近くレゲエを踊り続けていて、私の特徴である高い鷲鼻から付けられた名前です。当社のロゴもまた、レゲエをモチーフにした赤・黄・緑のラスタカラーです。

株式会社EAGLEロゴ

▲株式会社EAGLEのロゴ

ー:ゲーム制作の道に進まれたきっかけを教えてください

以前は、実は厩務員(きゅうむいん)を目指して牧場で働いてたりしてました。小学生の頃から競走馬に憧れていたので、とりあえず夢を叶えた形ですね。サラブレッドにえさをあげたり、背中に乗って走らせたりして、それなりに充実していました。

しかし馬の育成に答えはなく、当時19歳だった私は醍醐味を理解できませんでした。また、創造性を発揮するのが好きな性格なので、指示されたことを繰り返す毎日が苦痛になってしまいました。そこで将来を見つめ直した時に、そもそも競走馬に対する憧れが育成ゲームの「ダービースタリオン」にあったことを思い出したのです。

ー:「ダービースタリオン」は大人はもちろん、子どもにも競馬の魅力を広めた名作ですよね

そうですね。その時点から「人生に最も影響を与えるコンテンツはゲームだ」との考えに至り、現在の道を目指すようになりました。また「RPGツクール」というソフトで100時間ほどかけてゲームを作り、友達を喜ばせた経験もきっかけの一つです。

そして「まずは業界をのぞいてみよう」とのスタンスで、かつてコナミが運営していたゲームクリエイターの養成学校に入ることにしました。

パソコンさえ起動できなかった授業初日。しかしクリエイターとしての才能が開花し、卒業後は世界的サッカーゲームにプログラマーとして参加

ー:ゲームクリエイターとしてのスタートはいかがでしたか?

数学が嫌いで、入学当初はとにかくプログラミングが苦手でした。しかも最初の授業で私だけパソコンの起動方法がわからず、とても不安なのに、さも「電源の入れ方ぐらい知っていますよ」みたいに装っていましたね。先生の話に、無意味に大きくうなずいたりして(笑)。

でもアイデアを出すのは好きで、パワーポイントを習得し、校内の企画コンテストで次々と賞を取りました。すると「企画を形にしたい!」と、やっぱりゲームを作りたくなるわけです。時間を見つけてはインターネットを通じ、独学で一気にプログラミングを覚えました。

こうして完成した作品が先生に褒められ、校内のプログラミング大会でも高く評価され、仲間も楽しく遊んでくれましたね。彼らの意見を聞き、改善する作業が面白くて仕方なくて、ゲームクリエイター以外の仕事はすっかり考えられなくなりました。

ー:その後はいかがされましたか?

実力が認められ、学校では一般コースからエリートコースに移りました。そして卒業後はコナミに入社し「ウイニングイレブン」のチームに誘われてプログラマーになりました。この作品ではプレイステーション3時代、いわゆる2008から2012のタイトルにおいて、試合時の重要なプログラミングを任せていただきました。

若くして世界的なゲームの中心部分を担い「次はディレクターを目指すのかな」とも考えましたが、これまでに得た知見を生かして新しいチャレンジをしたくなり、転職してフリーランスを経て、2015年に株式会社EAGLEを興します。「出荷ぶた」は、この起業と同時にリリースした作品です。

育てた豚を肉にして収入を得るという、誰かに話したくなるシュールな世界観。ユーザーのライフスタイルに合わせた短いゲームサイクルと易しい操作性で、誰でもプレイ可能

出荷ぶたプレイ画像

ー:どのようなゲームなのか教えてください

牧場で豚を育て、お肉にして出荷し、お金をもらって新しい豚やえさを購入するスマホゲームです。2018年にはキャラクターなどの一部設定を変えた「出荷ぶた – 冬ver –」もリリースしました。

ー:牧場や豚というアイデアは、どうやって生まれたのですか?

開発当時「ねこあつめ」というゲームが人気で、私も動物を主役にした作品を作ろうと決めました。さらに、自身の経験を生かして牧場を舞台にすることを思いつき、リサーチする中で「豚」というキーワードに出合ったことがきっかけです。

そして私自身「クリッカー」のようなゲームが好きだったので「これを豚バージョンで作ってみよう!」と思い立ちました。ここが原点ですね。

ー:豚を育ててお肉にして出荷し、お金をもらうのはシュールな世界観ですよね

もちろんピュアな作風も考えましたが、ゲームだからこその“引っかかり”を大切にしました。たとえば、勇者が魔王を倒す物語はありふれているので、なかなか話題になりませんよね。ところが「豚を肉にしてお金をもらうゲームで・・・」となれば、話す人も聞く人も面白くなると思うのです。口コミではここが重要なので、シュールに仕上げました。

出荷ぶたプレイ画像2▲えさやりの様子

ー:どのようなユーザーを想定して開発されたのでしょうか?

遊ぶ人を選ばないのが「出荷ぶた」の良さです。ちっちゃなお子さんから、人生の大先輩方まで、あるいは多忙な社会人も暇すぎて困っている人も(笑)、誰でもプレイできますよ。

そのために、ユーザーのライフスタイルに溶け込める点を重視しました。スマホゲームは「起床してすぐ」「テレビを見ながら」「通勤電車で」といった限られた時間の中で遊んでいる人が多いので、立ち上げから数分以内で結果が出るような短いサイクルを追求しました。

ー:寝る前にゲームをする人も多い気がします

私も同様で、寝付けない時にもプレイします。「出荷ぶた」は、昼間と夜で背景やBGMが代わり、昼は賑やかで明るいテイストですが、18時以降は落ち着いた雰囲気に変わり、リラックスできる音楽も流れて眠りにいざなってくれます。

なお私の経験からして、牧場が最も美しいのは夜です。建物の明かりで草が淡いグリーンに照らされる景色は、限られた人間しか見られません。この感動を皆さんにも伝えようと、夜間の風景はこだわって作り込みました。

出荷ぶたプレイ画像3▲夜の牧場の様子

ー:操作方法もシンプルで、片手でも遊べますよね

これはゲーム制作者共通の課題で、電車などでプレイしてもらうにはスマホを縦にして片手で操作できることが基本です。「出荷ぶた」もこの形式を採用しています。

実際の操作では、小屋から出てくる豚にタップしてえさをあげると、自らお肉になってトラックに乗り込んでいき、そのトラックをタップすれば報酬を得られます。豚へのえさやりを動作の中心に据えたかったので、画面上部に小屋やトラックなどのオブジェクトを配し、画面中央の芝生にたくさんの豚が集まってタップできるよう設計しました。

作り手が見えるようキャラクターはあえて“ノリ”で考案。ゲーム内に優しい気持ちや感謝の言葉が広がってほしいと、アップデートで投資やチャット機能を追加

ー:多くのキャラクターが登場しますが、どうやって生まれたのでしょうか?

まず、豚が入る肉屋を考える際に「ストリートファイターⅡ」における春麗(チュンリー)のステージを思い浮かべました。店先にお肉が吊られている中華な雰囲気が面白くて、店主のキャラクターも「感謝するアル」といった口調でゲームをナビゲートします。

出荷ぶたプレイ画像4▲「~アル」の口調でゲームをナビゲート

:また、ユーザーが育てる豚は次々と種類が増え、現在はおよそ90です。アイデアは“ノリ”で、例えば暗殺アクションゲームを買った時に「アサシンぶた」が誕生し、『ゴルゴ13』を読んだ後に「スナイパーぶた」が生まれました。

出荷ぶたプレイ画像5

▲個性あふれる豊富なキャラクターが魅力!

一方、レビューで「豚がかわいくない」という評価を見て傷付いたことがあります(笑)。必死に「かわいい」の定義を調べたところ、丸みが鍵になるとの結論に至り、ピンクの風船のような「ボールぶた」ができました。ユーザーからも「ぬいぐるみにして」との声が聞けてうれしかったですね。

▲ユーザー人気の高い「ボールぶた(中央)」他、個性豊かな可愛いぶたたち

豚に与えるえさもまた、私がスーパーで見かけたムール貝などが登場します。ゲームを通して作り手の姿が見えてくる、そんな部分も大切にしています。

ー:開発に携わったスタッフはどんな方々ですか?

キャラクターや操作ボタンは2人の女性デザイナーが交互に制作しています。他に誤字や脱字を確認する人、第三者目線でクオリティチェックをする人、データやパラメータの打ち込みをサポートしてくれる人がいて、私自身はプログラミング担当です。

大型アップデートが続き、宣伝も功を奏してユーザーが増えているので、サーバープログラマーとも契約しました。いずれも業務委託で頼りになる面々です。

ー:大型アップデートとはどのような内容でしょうか?

前提として「出荷ぶた」では2年ほど前に「ありがとうと言われるゲームを目指す」というビジョンを掲げています。

これは一部ソーシャルゲームにおける、弱い者いじめに対する違和感から生まれました。上級者が初心者に「課金してからやってよ」と発言したり、始めたばかりの人がギルドなどのグループでお荷物扱いされたりするのを私自身が目撃して、嫌な気分になったことが背景にあります。

だから「出荷ぶた」には、長くプレイしている人が始めたばかりの人に優しくできる、投資機能をアップデートで追加したのです。

ー:どんな機能か教えてください

まず初心者は、一日で稼ぐ額の約400倍という大金がフレンドになった上級者から投資されます。これは上級者にとって無理のない額であり、彼らもまた、投資によって30分プレイした程度の報酬を受け取ることができます。

チャット機能も加えたので「こんなにもらっちゃって、ありがとうございます!」「いえいえ、頑張ってね」といった会話が生まれ、ゲーム内には優しい空気が広がっていますね。特にコロナ禍の今、誰かに感謝される機会が減っていると思うので「出荷ぶた」の世界では全員がハッピーになれるよう願っています。

出荷ぶたプレイ画像6
▲ユーザー同士の交流で優しい空気が広がる

ツイッター上の褒め言葉を見ながら飲むビールが最高で「だからゲーム作りは止められない」。9月にはイベント機能を追加予定で、牧場に限定のアルバイトがやってくる!

ー:ゲーム内で最も工夫した点を教えてください

出荷時のトラックでしょうか。豚はえさを与えれば勝手に肉になりますが、それだけで報酬を得ては「ゲームをプレイしている」という感覚が生まれません。そこで、あえてトラックをタップするという動作を加えました。

出荷ぶたプレイ画像7▲トラックをタップでお金をGET

これにより「お金を手に入れた!」という気持ちになって快感なので、ぜひ実感してくださいね。

ー:苦労された点は何ですか?

テストを繰り返す中で「このゲーム、楽しいのかな?」と疑問が生じることがあります。これはゲームクリエイターの宿命で、解消するのに苦労しますね。特に「出荷ぶた」は6年間もトライ&エラーを続けているのでなおさらです。方向性を見失わないためにもユーザーとのコミュニケーションに力を入れています。

その一つが「出荷ぶた」の問い合わせ機能で、ユーザーへの返信も私が全て書いています。「こういう機能があると便利」「この操作方法が不便」といった意見をダイレクトに伺えるので、軌道修正の大きなヒントになります。クリエイターは新しい価値を生み出すのは得意ですが、こと改善に関してはユーザー様のほうが上手ですからね。

ー:いざリリースして、どのような手ごたえを感じましたか?

リリースして間もなく、アップルストアの無料アプリランキングで国内2位になりました。

いきなり30万ダウンロードを記録し、現在はユーザーも増えて累計50万を超えます。ユーザーも全世代にわたり、子どもが遊ぶのを見たお母さんがダウンロードをして、投資してあげるといった話も聞いたりしますね。

会社の電話もよく鳴るようになり「うちの広告を出したい」というご要望が多いですね。ゲーム開発者向けの技術交流会であるCEDECでも、成功事例として取り上げられました。スタッフからも「美容院でスタイリストに『出荷ぶた』を勧められた」といったエピソードを聞いています。

私自身は、ツイッターで「出荷ぶた 面白い」と検索し、褒めてくれるコメントを見ながら飲むビールが最高に旨いです(笑)。これだからゲーム制作は止められませんね。

ー:今後はどのような展開が控えているのでしょうか?

9月にイベント機能を追加予定です。長くプレイしている人も初めての人もメリットを受けられる、期間限定のミッションを毎月のように展開しようと準備中です。

また「出荷ぶた」では、ゲームを周回するとバイトを雇えます。求人用紙を持って面接にきてくれて、雇用することでお得な出来事が待っています。9月からのイベントでは、ここでしか手に入らないバイトも出てくるので、どうぞお楽しみに!

ー:最後に「出荷ぶた」を楽しんでいる人、これから始める人にひとことお願いします

ユーザーの方々に支えられてここまできました。日常を忘れて没頭できるゲームなので、皆さんにとって休憩所のような存在であればうれしいです。頂いた質問にも真剣に考えて回答しているので、これからも互いに交流し、面白い作品に成長させていければうれしいです。

ー:ありがとうございました

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